椙田です、
「200万円で売りに出ているボロ戸建があったら、あなたはいくらで買い付けますか?」——もし「200万円と書いてあるんだから200万円でしょ」と思ったなら、はっきり言います。あなたは損をしています。
ボロ戸建、それも0円や激安で取引される空き家は、普通のマンションのように「この駅でこの広さなら相場はいくら」という物差しが効きません。値段を決めるのは相場ではなく、あなたがその家のダメなところをいくつ見つけられたかです。ところが、これを知っている人はほとんどいません。だから売主の言い値でそのまま買って損をするか、逆に「ボロいから怖い」と腰が引けて、本当はお宝だった物件を逃してしまう——そのどちらかになりがちです。
この記事では、空き家起業家・椙田拓也が、ボロ戸建投資における「指値(さしね)」の計算法を基礎の基礎から解説します。
そもそも「指値」とは?
指値とは、売主が提示している価格に対して、買う側が「私はこの金額で買いたいです」と希望額を提示すること。要するに値段交渉です。300万円と書かれた物件に「100万円でどうですか?」とこちらから伝える。これが指値です。
多くの人は、この指値をなんとなくで決めてしまいます。「ちょっと安くしてほしいから2割引きくらいかな」と。しかし根拠がないため、売主にも響かず、自分でもいくらまで下げていいのか分からない。これでは交渉になりません。
指値の計算式はこれだけ

ボロ戸建の指値には、ちゃんとした計算式があります。
物件価格 − 修繕にかかる費用 = 指値額
物件の値段から、その家を貸せる状態にするまでにかかる修繕費を引く。残った金額が、あなたが買っていい値段=指値額になります。
- 例1:200万円の物件にシロアリ被害があり、駆除に50万円かかる → 200万 − 50万 = 150万円で交渉
- 例2:350万円の物件で建物が傾いており、ジャッキアップと地盤改良で約300万円かかる → 350万 − 300万 = 50万円で交渉
「ここにこれだけのお金がかかるので、その分安くしてください」。これが指値の基本的な考え方です。非常にシンプルですね。
指値の伝え方:理論法と感情法

指値の伝え方には、大きく2つのやり方があります。
理論法
数字・写真・業者の見積もりなどを使い、きちんと根拠を示して交渉するやり方です。「シロアリの修繕に50万円かかるので、その分を引いて150万円でお願いします」といった形。相手も「それなら仕方ないな」と納得しやすくなります。
感情法
細かい根拠はいちいち説明せず、欲しい金額だけをポンと伝えるやり方です。「30万円で売ってください」——もし「なぜ30万円?」と聞かれても「いろいろ計算したら30万円になりました」とだけ答える。
基本的には、家の状態をしっかり見極めたうえで根拠を示す理論法のほうが成功確率は高いです。人は理由があると動きやすいからです。ただし、ガッツのある生徒さんが「とにかく20万円」と淡々と、帯びただしく(=執拗に)無根拠の指値を入れ続けた結果、何件か成約した事例もあります。まずは理論法を基本にしつつ、「断られても気にしない」という方は感情法でどんどん攻めてもいいでしょう。
修繕費を見抜く5つのチェックポイント

理論法を実践するには、どこにいくら修繕費がかかるかを見抜く目が必要です。ここが今日の本題。ただでもいらないと思われるようなボロ物件を見極める、5つのチェックポイントを順番に見ていきましょう。
1. 設備
キッチン・洗面台・トイレ・お風呂、そして給排水管・電気・ガス・水道など、生活に必要な住宅設備をチェックします。
特にトイレは要チェック。地方の0円空き家では、いまだに汲み取り式トイレも珍しくありません。リフォームでコストを抑えるなら、便器を新しくしてウォシュレット付きの簡易水洗トイレに交換する方法があります。ただし簡易水洗にする際は、汚物を貯めるタンクの大きさに注意。タンクが小さいのに水を流すとすぐいっぱいになり、オーバーフローするリスクがあります。
簡易水洗が難しければ、下水道につなぐか浄化槽を入れます。どちらも80万〜100万円と高額ですが、自治体によっては補助金(50%〜100%など)が出る場合があるので、必ずホームページで確認しましょう。
また、地方で意外と大事なのが駐車場です。地方は完全に車社会で、1人1台が当たり前。駅からの距離よりも駐車場の有無が重視されることが多く、ファミリー向けなら数台停められるのが理想です。「車がないから安い」という物件も、塀や庭を壊して駐車スペースを作れば、一気にお宝物件に化けることがあります。
2. 修繕・リフォーム
ここは少し壊れている程度ではなく、大きなお金がかかる部分だけを見ます。特に重要なのが雨漏り・傾き・シロアリの3つ。大きな指値の材料になります。
雨漏り:天井に雨染みのある空き家は非常に多いです。大事なのは、その染みが過去のものか、現在進行中かを見極めること。コツは雨の日やその翌日に現場へ行くこと。濡れていたり水滴が落ちてきたりすれば進行中で、大幅な指値ポイントになります。
傾き:内覧時には水平器を持っていくのがおすすめ。「なんか傾いてますね」では説得力がないので、数字で示すことが大事です。水平器がなければiPhoneの計測アプリでも代用できます(ただし精度は本格判断にはやや足りない場合も)。本格的に直すとジャッキアップと地盤改良で300万〜400万円かかることもありますが、生活に支障がないレベルなら床を調整するだけで数万円で済むことも。ただし今まさに沈み続けている「不同沈下」の物件、特に軟弱地盤の上にある物件は莫大な費用がかかる恐れがあるため、初心者は見送るのが無難です。
シロアリ:「シロアリ物件は買うな」とよく言われますが、対策費を差し引いた金額で買えるなら全く問題ありません。柱を見れば分かることが多く、過去の食害の跡が残っているだけのケースも多い。痕跡でも進行中でも値下げ交渉の材料になります。補修は大工さんに頼めば数万〜数十万円、専用業者だと数十万円以上が多いです。最も安いのは水ガラス(無機質成分の防水塗料)で木材をコーティングする方法。ただし外来種のアメリカカンザイシロアリだけは別で、乾いた木材の中でも生き、屋根を支える木材まで食い荒らすため特に注意が必要です。
3. 残置物
前の所有者が残していった荷物のこと。仏壇・テーブル・ソファ・家電・押入れの布団など、夜逃げのようなケースでは家財がそっくりそのまま残っていることもあります。
基本は売主に片付けてもらうのが望ましいですが、断られることも多い。その場合は遺品回収業者に見積もりを取り、「撤去に50万円・100万円かかります」と、その見積もりをそのまま売主に見せて値引き交渉の材料にしてしまいます。実際には便利屋や遺品回収に頼めば1本あたり1万5000円ほどで片付けられることもあります。
また、残置物は必ずしも全部処分しなくてOK。処分するから高いのであって、部屋の隅に寄せるだけならコストはぐっと下がります。部屋数が多い田舎の家なら1部屋にまとめて「開かずの間」にする手も。売れるものはメルカリやヤフオクで換金し、お金にならないものだけ処分すれば費用は随分抑えられます。
4. 安全性
ここはこれまでと毛色が違い、指値の材料というよりそもそも買うべきかどうかの判断に関わります。
- 窪地:崖も傾斜もないのにそこだけ地面が低い場所。見た目では分かりにくいので、ハザードマップで確認を。水が溜まりやすく、ゲリラ豪雨で浸水したり、地震で地盤が緩むリスクがあります。
- 崖地:崖の上、または崖の下に家があるケース。崖が崩れれば家ごと崩れ、崖下なら命に関わります。
- 擁壁(ようへき):崖が崩れないように作られた石垣のような壁。今のコンクリート擁壁なら大丈夫な場合もありますが、昔ながらの石を積んだ擁壁は要注意。時間とともに強度が落ちて崩れることもあり、今の基準で作り直すと数千万円かかるケースも。しかも擁壁の管理は所有者の責任で、崩れても損害保険が効かないことがあります。
こうした解決できない問題を抱えた物件は、0円でも避けるのが無難です。
5. 環境
特に見るのは賃貸需要と気候の2つ。
賃貸需要:その地域で借りたい人がどれだけいるか。家賃設定に直結します。不動産サイトでその地域の家賃相場を調べれば大体分かります。合わせて見てほしいのが生活保護の住宅扶助額。ネットで検索すると一覧が出てきて、その地域の家賃の下限の目安になります。
気候:北から南まで気候はまったく違い、同じエリアでも海沿い・山沿いで変わります。特に豪雪地帯は注意。「ここは豪雪地帯なので、雪がどれくらい積もるか冬に見に来てから決めてください」と言われた例もあります。慣れない土地の物件を買うときは、一度その地域の気候を体感しておくとよいでしょう。
最も大事なのは「解決できる問題/できない問題」の見極め

5つのポイントを見てきましたが、ここで一番大事なことを。それは解決できる問題と解決できない問題を見極めることです。
雨漏り・傾き・シロアリ・残置物・設備——こういうのはお金でなんとか解決できる問題。だからかかる費用をざっくり見積もって、その分を指値で引けばいい。むしろ欠点が多いほど、安く買える材料が増えるということです。
逆に、崩れそうな擁壁や今まさに進行している地盤沈下は、いくらお金をかけても安心が買えない解決できない問題。これは指値うんぬんではなく、そもそも素人は手を出さない。この線引きができるかどうかが、安い物件をお宝に変えられる人と、損してしまう99%の人を分けるポイントです。
まとめ

- 指値の計算式は「物件価格 − 修繕費 = 指値額」
- 修繕費は5つのポイント(設備/修繕・リフォーム/残置物/安全性/環境)で具体的に見積もる
- 伝え方は理論法が基本
- そして解決できない問題を抱えた物件には手を出さない
ただし、正しく計算できても、その金額をどう伝えるかで結果はまったく変わります。同じ50万円でも、買付書という紙で出すのか、電話で伝えるのか、直接会って言うのか——この「通し方」ひとつで通ったり断られたりするのです。正しく計算しても、通し方を知らなければ意味がありません。



